旅行業界の奥深さを語ってみる

GoToトラベルが始まって1カ月以上が経ちました。

未だに始まっていない地域共通クーポン、分かりにくいシステム、「この時期に動くのは不安」という気持ちなど、様々な理由があって残念ながら盛り上がりに欠けています。色々な業界が苦しい状況にある今、私が旅行業界で経験してきた事を少しご紹介してみたいと思います。

 

この業界、パンフレットを作ってツアーを販売しているだけではありません。沢山の人が動く時には、見えないところで旅行業界が頑張っています。果たすべき役割は滞りなく事を進める事、次々に起こるトラブルを処理していく事。なので打たれ強く、様々な事に対応する柔軟性があるのが、私が思うこの業界で働く人たちの特徴です。

 

まだ携帯電話が縦に大きく手を広げて握らなければ持てない形だった頃、私は横浜の高級ホテル前で次々にやってくる大型バスを待っていました。国際会議のアテンドです。ホテル入口から会場入口までの人の流れが滞らないように、無線機と携帯電話を駆使して走り回っていました。あの時に話しかけてくださったギリシャの地震学者の方の優しい笑顔を今でも忘れません。

 

世界中の馬主さんが集まる会議の場で、なぜか英語通訳をする羽目になったこともありました。競馬レースの名前もよく分からず、目の前にいる人が業界の超有名人だという事も知らずにその場にいました。今は絶対にありえないと思いますが・・・。

 

各国の要人が日本へやってくる事は多々あります。例えば大統領。テレビ等に映る事はほとんどありませんが、やってくるのは大統領だけではありません。旧ソビエト連邦内の山岳国から大統領とともにやってきた大臣や書記官等の方々がご帰国の際、千代田区内のホテルから成田空港までお送りした事もありました。「海がない国だからお台場で時間を取って海を見てもらおう」という通訳さんのご指示のもと、レインボーブリッジを渡りお台場へ。海が見えてきたころからバスの中は大興奮状態、皆さん窓に張り付くように景色に見入っていました。あまりの興奮状態に通訳の方が私に一言「やっぱり降りるのはやめて、まっすぐ空港へ行こう。この人たち元々遊牧民族だから、一度バスから降りたら日が沈むまで帰ってこない」

 

日本へ働きに来てくれている外国人の方々が帰国の日を迎える事となり、宿泊先から成田空港の出国審査場入口まで送り届けるという業務もありました。帰国日の朝、宿泊先へ迎えに行ってみると誰もいませんでした。いったいどこへ行ってしまったのか誰もわからないまま、旅行会社としての業務は終わりました。

 

日本で大人気のアイスショーに出演していた外国人スケーターが、怪我をして急遽帰国する事になりました。私の後輩が羽田空港までアテンドする事になりましたが、そのスケーターさんがあまりにも悲しそうな顔をしていたので、励ますために空港でご飯をご馳走したそうです。後輩の日当は、このご飯代で消えたどころか赤字だったようです。

 

この業界で20年以上の時を過ごし、様々な経験をさせて頂きました。同じ業界の友人は、2019年に行われたラグビーW杯、今年行われるはずだった東京オリンピック・パラリンピックの業務に、その1年以上前から携わっていました。彼らのたゆまぬ努力によってラグビーW杯は大成功。その努力と各企業や国が投資してきた莫大な時間やお金を無駄にしないよう、来年をいい形で迎えられる事を祈っています。

 

人が動かなくなると、旅行業や宿泊業・運送業や飲食業など観光に携わる業種ばかりでなく、様々な業界に影響が出る事を知りました。ガソリンの消費量が減り、高級食材が売れなくなり、シーツや浴衣、おしぼりの使用量も減り、クリーニング屋さんの仕事が減る。この状態が長引けば長引くほど、社会全体への影響は計り知れません。もし来年以降、海外からの方が再び来られるようになっても、それを受け入れられる体制は既に無くなっているかもしれません。数年先、海外旅行へ行きたくなった時に、どの位の航空会社が残っているのか、現地でトラブルに見舞われた時に助けてくれる旅行会社が存在しているのかも気掛かりです。

 

広い視野で、これからの事と自分の行動を考えなければいけない時期だと思っています。毎日報道される感染者の数に一喜一憂するのではなく、日本全体を考え世界を想う。来年の姿、5年後の姿に思いを馳せ、その為に今できる事をコツコツとやっていく。前向きに!そんな自分でありたいなぁと思います。自分の為、そしていつもそばにいてくれる大好きな人たちの為に。

 

私の座右の銘は「人生楽しんだもん勝ち」です。